「恩師と私」 大学で講師に学んだ卒業生のエッセイ集
大学非常勤講師 高橋汐子 三田村雅子先生と『源氏物語』への道―テクストに輝きを―
三田村雅子先生と『源氏物語』への道―テクストに輝きを―
大学非常勤講師 高橋汐子
平安文学や和歌文学に興味があり、フェリス女学院大学日本文学科に入学しました。当時より源氏物語研究の第一人者でおられました三田村雅子先生のゼミに所属し、三田村先生と『源氏物語』に魅せられて、大学院に進学し、現在大学等で講師をしております。
学生時代より三田村先生には、学生は勿論、老若男女問わず大勢のファンがいらっしゃいました。私は『源氏物語』をはじめとした平安文学―『紫式部日記』『宇津保物語』『堤中納言物語』『とりかへばや』等のご講義、少人数制の演習やゼミなど、様々な授業や講演会に参加させていただいておりましたが、いずれも皆、ご講義の後には確実に作品が輝いていきます。
古典文学となると、古語という難題、当時の時代背景や文化といった基礎知識を要するなど、多くの壁を感じますが、三田村先生のご講義はそれらを超越していきます。現代を生きる私たちにも相通じる人間の普遍的な煩悶や性(さが)、尽きない欲望や果てのない絶望、老いや病や死、千年の時を経ても変わらない人々の思いを救い上げ、作品の深層へと誘っていきます。また同時に、明らかなる時代の変革とともに失われた感覚や美意識について、丁寧に補ってくださり、平安貴族社会の華麗な異世界が垣間見られるような、隔絶された時空の旅が体感できます。古典文学に興味を持ち、平安時代に魅せられ、三田村先生の鋭くて刺激的な読み、吸い込まれるような語り口に圧倒され、つい惹かれていってしまう…。
当然、作品そのものに魅力があるのですが、やはり、どう読むか、どこに視点を当てるか、どの角度から見るかによって、物語の風貌は変わっていきます。今、私自身もまた教壇に立ち、古典文学や日本文化史等の授業を担当させていただく身となって、学生がテクストに触れ、受講後の作品が少しでも輝きを増すように、その思いだけは常に抱いています。
この度は、『枕草子』の講座を試聴体験させていただきました。清少納言の当時の伝統や常識を超えて打ち出される新しい感覚について、とても共感いたしました。折しも、清少納言の言葉や地名に対する拘りや面白さ、独特の視点の先に見出されていく気づきや発見のような呟きに惹かれ、「雲は白き 紫 黒きもをかし」「遊びは夜 人の顔見えぬほど」等、言葉の機微や鋭敏な感覚、斬新な美意識に拘りながら、『枕草子』を題材とした書作にも励んでいたところでしたので、今回の講座には、より深く感慨を覚えました。
三田村先生のご講義を懐かしくも拝聴し、学生時代を思い出しながら、改めて感じ入ってしまう贅沢な午後のひと時でした。
高橋汐子プロフィール
博士(文学) 大東文化大学文学部日本文学科非常勤講師 他。
専門は源氏物語を中心とした中古文学。
書家 幼少期より栗崎浩一路に師事し、朝聞書会(審査会員)・東原書道会(評議員)・埼玉県美術家協会等に所属しながら、文学作品などを題材とした書作活動を行っている。
《雅号 高橋香韻》
第36回最高賞作家ミニ作品展
(三田村先生のご著書を書かせていただいた作品「移り香の宇治十帖」より)
第9回東原書展に向けての書作風景(『枕草子』より)