『古事記』は、『日本書紀』と並ぶ古代の歴史書ですが、その性格は大きく異なります。国家の歴史書であることを標榜する『日本書紀』とは違い、『古事記』は宮廷の歴史書としての性格をつよくもち、しかもそれを一個の物語として語ろうとします。それゆえ『古事記』には、高い文芸性が現れています。
本講座は、東京大学名誉教授・多田一臣先生が、「天地初発」から雄略天皇の物語まで、『古事記』を文学作品として全15回で読み解くオンライン講座です。民俗学の視点も導入しながら、古代の人びとの世界像に迫ります。

《日本古典への招待》『古事記』 講師:多田一臣(国文学者・東京大学名誉教授)

講座名
《日本古典への招待》『古事記』を読む
講師
多田一臣(国文学者・東京大学名誉教授)
構成
全15回(前半 第1回〜第7回=神話の世界/後半 第8回〜第15回=神話から歴史へ)
総再生時間
約18時間55分
受講方法
ストリーミング配信。パソコン・スマートフォン・タブレットで、いつでも何度でも受講いただけます。

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講師からのことば

『古事記』は、『日本書紀』と並ぶ古代の歴史書だが、その性格は大きく異なる。国家の歴史書であることを標榜する『日本書紀』とは違い、『古事記』は宮廷の歴史書としての性格をつよくもつ。天上の世界から地上の世界へ、アマテラスを始原とする皇統が、天孫降臨以後、どのように継受されてきたのかを、『古事記』は宮廷の歴史として語ろうとする。しかも、一個の物語として語ろうとする。それゆえ、『古事記』には、高い文芸性が現れている。

この講座では、『古事記』の文脈に即しながら、『古事記』を文学作品として読んでいこうと思う。民俗学の視点も導入しながら、古代の人びとの世界像がいかなるものであったのかについても言及したい。『古事記』は、こんなにおもしろい!

多田一臣

全15回の講義内容

前半講座 第1回〜第7回 神話の世界

第一回『古事記』の成立と「天地初発」約1時間11分

まずは、『古事記』とはどのような歴史書であったのかについてお話しします。『古事記』の成立事情、フルコトブミとしての『古事記』の意味、『日本書紀』との違いについて触れた上で、なぜその成立が元明天皇の時代であったのかについて述べていきます。それに続けて、『古事記』上巻冒頭の「天地初発」の記事を見ていきます。混沌の中から天と地とが分かれ、そこからさまざまな神が出現するところまでをながめていきます。

第二回黄泉の国神話 アマテラスとスサノヲ約1時間14分

神々の最後に出現したイザナキとイザナミは、国生みを行い、さまざまな神を生みます。火の神を生んで、身を損なわれたイザナミは黄泉国(死者の世界)へと赴きます。イザナキは後を追いますが、ついには黄泉国との絶対的な断絶が生じます。以下、イザナキのミソギによって、アマテラス、ツクヨミ、スサノヲの三貴子が生まれた次第をながめ、アマテラスとスサノヲの対立、アマテラスが「天岩屋戸」に隠り、世界が闇に閉ざされるまでを見ていきます。

第三回スサノヲの出雲降臨とヤマタノヲロチ退治約1時間15分

高天原に混乱をもたらしたスサノヲは、地上世界に追放されます。スサノヲは出雲の地に降り立ち、そこに毎年やって来て犠牲を要求するヤマタノヲロチを退治し、犠牲となるはずだったクシナダヒメを妻とします。ヤマタノヲロチを「八入折の酒」に酔わせることが、ヲロチ退治の一つの眼目になりますが、そこから、古代の酒造りがどのようになされていたのかについて、やや踏み込んだお話をします。

第四回大国主神の物語約1時間19分

大国主神は、出雲神話の中心となるべき神です。大国主神には、「大黒様」の歌でよく知られた因幡の白兎の話があります。ここでは、それを話の糸口としながら、根の国の主宰神となっているスサノヲの娘スセリビメを妻とする次第を見ていきます。根の国に赴いた大国主神が、スサノヲからさまざまな試錬を課されるものの、それらを克服し、スセリビメとともに地上世界(葦原中国)に逃れて、その支配者になるまでをたどります。

第五回国譲りと天孫降臨約1時間25分

大国主神は、地上世界(葦原中国)を平定してその支配者となりますが、一方、高天原の神々は、その地上世界にアマテラスの子孫を降臨させて、新たな支配者にしようとします。地上世界の支配権を譲り渡すよう大国主神に迫ることになりますが、それを「国譲り」と呼びます。ここでは、その「国譲り」の結果、地上世界に降臨したホノニニギとコノハナノサクヤビメとの婚姻、その間に生まれた海幸・山幸の物語について見ていきます。

第六回神武東征から即位へ約1時間17分

ここから、中巻の世界になります。山幸の子、ウカヤフキアヘズの子が神武天皇になりますが、その神武が日向の地から東へと向かい、ついに大和の畝傍の白橿原宮で即位するまでを見ていきます。これを一般に神武東征と呼びますが、なぜ東へ東へと向かうのか。その理由を考えます。即位後、神武は三輪山の神の娘イスケヨリヒメを皇后としますが、神武の崩御後、皇位継承争いが起こります。そこから、近親婚の禁忌の問題、また皇后の地位がもつ意味を考えます。

第七回崇神天皇と三輪山神話約1時間21分

第十代の天皇である崇神天皇と三輪山の神とのかかわりを中心にお話しします。疫病の流行が三輪山の神の祟りであることを知った崇神天皇は、夢の告げを受けます。三輪山の神の四世の孫オホタタネコに三輪山の神を祭らせることで、祟りは鎮まります。オホタタネコが三輪山の神の子孫とされるその由来が、三輪山神話になります。神を祭るとはどのような意味をもつ行為であったのか、神とはどのような存在であったのかについても考えていきます。

後半講座 第8回〜第15回 神話から歴史へ

第八回ヤマトタケルの物語①約1時間13分

この回と次回の二回、ヤマトタケルの物語を取り上げます。「景行記」の中心は、このヤマトタケルです。ヤマトタケルの並外れた暴力性を恐れた父・景行天皇は、ヤマトタケルを西征に向かわせます。以下、西征の対象である熊曾建、さらには出雲建の討伐譚を見ていきます。ヤマトタケルを辺境に追いやる王権の論理とはいかなるものであったのか、またヤマトタケルが女にも紛う美麗な質を具えていることの意味についても考えます。

第九回ヤマトタケルの物語②約1時間19分

前回に続き、ヤマトタケルの物語を見ていきます。西征から戻ると、ヤマトタケルはすぐに東国平定を命じられ、ついには伊吹山の神の祟りにより、悲劇的な死を遂げます。尾張のミヤズヒメとの婚姻をどのように意味づけるか、「月の障り」の問題についても論じます。ヤマトタケルの描かれ方は『古事記』と『日本書紀』とでは大きく異なりますが、そこに歴史書としての性格の違いが現れていることを、具体的に指摘します。

第十回神功皇后の物語約1時間26分

仲哀天皇は、神の言葉を疑い、ために崩御します。仲哀は、天皇としての資格を神によって否定された天皇でもあります。仲哀はなぜ神の言葉を疑ったのか。そこから、支配する領域を「見る」ことがいかなる意味をもつ行為であったのかを考えます。仲哀に代わって新羅に出征したのが神功皇后ですが、応神天皇の生まれるのを先延ばしにしたとされる「鎮懐石」の伝説、また応神の出生にかかわる住吉三神との関係などについてお話しします。

第十一回仁徳天皇の物語①約1時間11分

ここから下巻の世界になります。仁徳天皇は、仁と徳とを体現した古代の聖帝とされます。そうした聖帝でありながら、仁徳の記事の大半は、皇后イハノヒメの並外れた嫉妬の物語によって構成されます。仁徳はなぜ皇后の嫉妬に悩まされるのか。ここでは、嫉妬の意味を、古代の「いろごのみ」の論理と結び合わせることで考えていきます。同時に、イハノヒメとはどのような存在であったのかについて見ていきます。光明子の立后問題が関連することにも触れます。

第十二回仁徳天皇の物語②約1時間10分

ここでは、仁徳天皇の異母弟、異母妹である、ハヤブサワケと女鳥王の反乱伝承をながめます。歌を中心とする歌物語として展開される話ですが、歌物語もまた、『古事記』の文芸性を支える大切な要素の一つといえます。さらに、日本で産卵するはずのない雁がこの国で卵を生んだとする奇瑞譚、また世界樹とも呼べるほどの巨木を切り倒して船を作り、その船で淡路島から毎日のように天皇の食膳の水を運んで来たとする伝承を見ていきます。

第十三回軽太子の近親相姦の物語約1時間06分

允恭天皇の崩御後、皇太子に定まっていた軽太子と、その同母妹である軽大郎女との密通が露顕します。同母の兄妹による近親相姦です。軽太子は捕らわれ、伊予に配流されます。軽大郎女(別名・衣通王)はその後を追って伊予に赴き、二人はそこで情死します。いわば悲劇の恋物語ですが、すべてが歌を中心とする歌物語として展開されます。『日本書紀』とはやや違った筋道をたどりますが、その歌物語を、できるかぎり丹念に読み進めていきます。

第十四回雄略天皇の物語①約1時間11分

雄略天皇は、仁徳天皇とともに、下巻の世界を代表する天皇です。ここではまず、雄略のさまざまな恋物語を見ていきます。後に雄略の皇后となる若日下部王への求婚の物語、三輪山の神に仕える巫女とおぼしき赤猪子と呼ばれる女への求婚の物語、さらには雄略が吉野川の辺で出逢った仙女と聖婚を行ったとする話などをながめていきます。求婚の物語ではありませんが、大和の国号が「蜻蛉島(秋津島)」となった由来譚も見ていきます。

第十五回雄略天皇の物語②約1時間17分

まずは、葛城山を舞台とする二つの話を見ていきます。一つは、雄略天皇が大猪と遭遇した際の、やや滑稽な内容の話。いま一つは、雄略が葛城山の神である一言主神と出逢ったとする話です。雄略には暴虐なところがあり、雄略に父を殺された二人の兄弟(後の顕宗天皇・仁賢天皇)が、雄略の崩御後、世に現れるまでの経緯をたどります。最後に、『古事記』を支える歴史意識がどのようなものであったかを確認して、全体の結びとします。

講師紹介

多田一臣

多田一臣ただ・かずおみ

国文学者・東京大学名誉教授

東京大学大学院修了。博士(文学)。千葉大学助教授、東京大学教授、放送大学客員教授、二松学舎大学特別招聘教授等を歴任。日本古代文学、日本古代文化論専攻。

著書に、『日本霊異記』(全3冊、ちくま学芸文庫)、『万葉集全解』(全7冊、筑摩書房)、『古代文学の世界像』(岩波書店)、『柿本人麻呂』(人物叢書、吉川弘文館)、『古事記私解ⅠⅡ』(花鳥社)、『万葉樵話』(筑摩書房)などがある。古代の人びとの背後にある世界像の追求と表現史の構築とを目指す。

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