「収録を終えて」 講師のことば

『源氏物語』の生老病死を読む フェリス女学院大学名誉教授 三田村雅子

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『源氏物語』の生老病死を読む
 フェリス女学院大学名誉教授

三田村雅子

収録を終えて

2022年4月から11月にかけてJPのカルチャー講座の撮影をしました。その間、体調を大きく崩したこともあって、病を乗り越えての忘れられない収録になりました。講義のテーマが生老病死、特に死を中心に据えていましたので、改めて、生の意味、死の捉え方に思いを致す体験となりました。今回の講座で従来してきた読みよりも、少しだけ進化した点があったとすれば、こうした経過とともにあったせいでしょう。今回の収録は「いのちなりけり」を痛感させられる体験で、不安の中でこの講座を最後までやりきることができたことを、心の底から喜びとすることができました。

わたしにとってこうした撮影をするのは三、四十年前のNHK教育テレビの撮影以来で、ひさしぶりのことで、無駄に緊張したり、焦ったりしました。

わたしは授業の時に原稿など作ったことがなく、いつも原稿なしでしゃべっていましたので、原稿を作る作業はとても大変でした。作った原稿を読みながら、しかも視聴者の方をどう向いたらよいか、どう視聴者に思いを届けるのか、目線には気を配りましたが、それでも、下を向いて読んでいる場面ばかり多くなってしまったことは残念です。もっと、内容を頭に入れて前を向いて話さなければならなかったと反省しています。

JPの技術者、カメラマン、本文チェックなどはテレビほど大がかりなものではありませんでしたが、最小限のことを的確にやっていただいたせいで、手作り感満載で、しかもしっかりした水準のものをお届けできたのではないかと思っています。中でも画面の中に本文が映しこまれて、話の展開に従って移動していく作り方はスムーズでわかりやすいと感嘆しました。

特にうれしかったのは録音の音質の良さで、声が微細なニュアンスまで活き活きと伝わることで、原文の響き、うねり、テンポを再現できたのではないかと思われるところです。

三、四十年前のNHKの撮影時より、明らかに進歩したのは、録音機材に加えてわたしの原文朗読能力で、この間朗読の大家・幸田弘子さんと十年にわたって『源氏物語』朗読と解説の会(「源氏語り五十四帖」さいたま芸術劇場)をやらせていただいたお陰で、幸田さんの朗読の呼吸をひそかに盗み取って、自分の「武器」とすることができました。三田村の解説・講義ももちろんですが、朗読で原文の味わいを繰り返し楽しんでいただけたら幸いです。