「恩師と私」 大学で講師に学んだ卒業生のエッセイ集

二松学舎大学非常勤助手 大村美紗 古代へと続く道

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古代へと続く道

二松学舎大学非常勤助手 大村美紗

二松学舎大学非常勤助手 大村美紗

多田一臣先生と出会ったのは、仕事を辞め、大学院に社会人入学した10年程前のことです。『万葉集』や『常陸国風土記』について、朗らかで活発な雰囲気の中でご指導いただきました。文学に興味を持ちながらも、大学で法律を専攻していた私にとって、どの内容も新鮮で刺激的であったのは当然ですが、何よりも面白かったのは先生の〝脱線〟です。『万葉集』や『常陸国風土記』から、落語や全国各地で売られる銘菓の話題へ。こうした〝脱線〟は、私たちが過去に繋がる存在であることを強く意識させるものでした。

第二次世界大戦以降、日本は政治・経済・文化的に、世界の国々と密接に結びついてきました。政府は様々な問題に対して諸外国や国際機関と協力して解決策を模索しているようですし、私たちの生活も海外で生産された商品であふれています。海外から進出してくる企業も多く、それらの中には英語を公用語としているところもあると聞きます。こうした流れの中で、近年では小学校での英語教育が必修化されました。幼少のころから英語に触れることで、日本語に無い音を聞きとれるようになりますし、異文化への理解も深まります。グローバル社会においては欠くことのできない技能であり、必要とされる場面も増えていくことと想像されます。

言葉はある意味で道具ですから、それを使いこなす能力を磨く努力は大切です。しかし、それ以上に大切なのは、私たちが何者であるのかを知ることであると思うのです。古典文学は、過去の人々がどのような世界を見て、どのように生きたのか、そして時には、昔から変わらない普遍的な価値や教訓を教えてくれます。それは、私たちの生きる世界が過去からの連続性の中で生まれたものであることを物語っています。

多田一臣先生の授業はそれを強く意識させるものでした。まさに、根っこを与えてくれるものであったと思います。

今回、収録された『古事記』の講義は、私たちを古代へと導いてくれます。再び、古代への畏怖に満ちた教えを受けられることはこの上ない喜びです。〝脱線〟とそこから発生する刺激的な論の展開も、大学でのそれと同様です。是非、多くの方々に届き、古代人の息遣いを感じ、また、日本の根っこを確かめる機会にしていただけたらと願っています。


大村美紗プロフィール

慶応大学法学部法律学科卒業後、一般企業に就職。後に二松学舎大学文学部国文学科博士前期課程に社会人入学。現在、二松学舎大学非常勤助手。


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