「恩師と私」 大学で講師に学んだ卒業生のエッセイ集
キャリアコンサルタント 石橋かおる 栃木先生の思い出―卒業論文と『平家物語』灌頂巻―
栃木先生の思い出―卒業論文と『平家物語』灌頂巻―
キャリアコンサルタント 石橋かおる
栃木先生は千葉大時代、卒業論文の指導教官でした。元々平家物語に興味を持っておりましたが、栃木先生のお人柄と語りの素晴らしさに魅了され、迷わず栃木門下に入りました。当時の千葉大国文学研究室は、学年・専門の枠を越え、学生も先生方も仲がよく、一緒に旅行へ行ったり、野球が大好きな栃木先生をお招きし、球場を借り切って野球大会を行ったりしたこともあります。今にして思えば、栃木先生の解説付きで鎌倉や京都の平家物語ゆかりの地を巡るなど、何という贅沢でしょうか。ちなみに、当時千葉大に在籍されていた万葉集の多田一臣先生も学生が集う控え室で時々談笑されていました。
話は戻りますが、私の卒業論文のテーマは『平家物語』灌頂巻でした。最後は時間切れでやり残した課題を並べ立てたような拙いものでしたが、褒め上手な栃木先生は「今年の卒論は力作揃いでしたから、是非後輩のためにコピーを置いていってください」と持ち上げてくださり、とても嬉しかったことを覚えています。卒業後学会へ参加した際、初めて会った後輩達から「先輩の卒論読ませていただいています」と声をかけられ、本当に活用してくださっているのだと、感激と同時に驚いたものです。
今回JPカルチャーの講座で、久しぶりに栃木先生の講座に触れることができました。学生時代に聴いたそのままの名調子。そして講座の最後では灌頂巻について詳しく解説し、新たな論説を展開されていらっしゃいました。かつて学会で声をかけてくれた後輩、小番 達(こつがい とおる)氏(現、沖縄公立・名桜大学教授)の論文も引かれ、自身の卒業論文がより高く後輩に引き継がれ、数十年かけて恩師から貴重な答えを返していただけたような、そんな思いでおります。
このところの戦争や相次ぐ災害のニュースに、思わずあの平安末期の混乱の時代を重ね、再び『平家物語』を手にしております。数年前にアニメ化もされましたが、是非若い方にも親しんでいただきたい作品です。『平家物語』は耳から、そして流れるように心地よい栃木先生の朗読と解説で味わっていただくことをお勧めします。
石橋かおるプロフィール
大学卒業後10年間銀行勤務。子育てをしながら絵本読み聞かせなどボランティアに多数参加。学校支援地域コーディネーター、フリーアナウンサー、ビジネスマナー講師を経て、現在キャリアコンサルタントとして大学キャリアセンターに勤務。