「恩師と私」 大学で講師に学んだ卒業生のエッセイ集

琵琶奏者 坂田美子 平家物語と琵琶を通じて~学生時代、そして現在まで

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平家物語と琵琶を通じて~学生時代、そして現在まで

琵琶奏者 坂田美子

琵琶奏者 坂田美子

栃木先生との出会いは大学時代です。私は高校三年で進路を決める際は既に琵琶奏者を目 指しておりましたが、当時は琵琶を専門に学ぶ事が出来る大学はありませんでしたので、大学には行かなくてもいいのではという気持でおりました。結果的に一般の大学に入学しましたが、その様な理由でどこか腰掛的なイメージの大学生活のスタートでした。

そんな私にとって、平家物語の講義を受けることだけは、琵琶奏者を目指す者として外せない大切なものでした。そしてその講義をしてくださっていたのが栃木先生でした。当時栃木先生は千葉大学にお勤めで、私の在籍していた武蔵大学へは非常勤講師として通ってくださっておりました。

プロ奏者を目指していた私は在学中から琵琶の公演活動も行っておりましたが、なんとあるコンサートで平家物語を語った時、栃木先生がわざわざ聴きに来てくださったのです。私の所属していた平家ゼミの友人がゼミ仲間と一緒に先生を誘ってくれたとのことでした。一学生の演奏会によくぞ足を運んでくださったと、恥ずかしい気持ちと感謝の思いで一杯でした。

卒業後は演奏会に来てくださるばかりでなく、色々な場で琵琶演奏の機会を与えてくださり、さらには平家物語のいくつかの名場面の作詞もしてくださいました。その中でも「壇ノ浦~安徳天皇入水」は、私にとって最も大切な曲目となりました。本当に先生には感謝の言葉しかありません。

その上この度は、ご講義収録の際に特別に聴講もさせていただけました。各ご講義の内容の奥深さは勿論ですが、私は先生が原文を読まれる時の声の響きが大好きで、その表現力にいつも引き込まれました。またご自身で訳された現代語訳の美しさにも毎回聴き惚れておりました。感動して知らぬ間に涙した自分に驚いたこともありました。

この栃木先生の貴重なご講義が、少しでもたくさんの方に届くように、そしていつまでも繰り返し学びなおせるものとして配信され続けることを心より願っております。


坂田美子プロフィール

琵琶を10年間半田淳子に師事。謡曲を浅見重好に、講談を神田松鯉に学ぶ。琵琶・語り・歌の世界に魅かれ、平家物語等の古典の他、民話や小説を題材とした現代語による弾き語り曲、また歌などの作詞、作曲、演奏活動を国内外で展開している。桐朋学園芸術短期大学非常勤講師。第40回日本琵琶楽コンクール第1位、文部科学大臣賞受賞。NHK総合テレビ「新日本紀行ふたたび」のテーマ曲(冨田勲作曲)の作詞と歌を担当。NHKテレビ「名曲アルバム」にて栃木孝惟作詞、坂田美子作曲の「壇ノ浦?安徳天皇入水」を自演。